スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

旅行中に歯の詰め物が取れたり、虫歯が痛くなったり、あまり遭遇したくないことですが、ちょっとした疲れなどで、不都合になりがちな歯。日本ならば、保険証さえ持って出れば、どの歯医者さんに駆け込むことも可能と言うもの。

先日、奥歯の詰め物が取れてしまいました。なんと、クリームチーズをかじっていて、「ガリッ」と…。

いざ、異国で歯医者さんへ。言葉は必要?

[待合室の椅子がおしゃれ。使いやすそうなバリアフリーのトイレ]

頭痛であれば、薬を飲んでゆっくり休めば良いのですが、歯の詰め物というのは薬も効かず、救急絆創膏を貼るわけにもいかず、ましてや、できるだけ早く処置しなければ穴が拡大してしまい、大変な痛い目にあうことがわかっているので、筆者は有休を取ってでも駆け込みます。その日は、日曜日。当番医を探して電話で予約を取り付けました。クリームチーズ事件から15分後には、歯医者さんの待合室に到着しました。でも、これが異国で起こったら…。ぞっとしますよね。

[いろいろな器具が並ぶテーブル。日本の歯医者さんとなんら変わらない]

 

スペインでの社会保険利用では、歯科医で抜歯は無料です。でも、抜歯する、というのはかなり悪化した状態だとは思いませんか? そうですよね。普通は神経に触って痛かったり、歯茎が腫れたり、詰め物が取れたり、歯が欠けたり。必ず治療が必要になるわけです。とういうときはどうしたらいいのでしょうか?

なんか、不安ですよね? スペインでは歯医者はほとんど私立のクリニックで、公立の社会保険ではなく私立の医療グループの保険を使う、もしくは自費で、になるのです。私立の医療グループ会員になると、電話帳のようなガイドブックがもらえ、そこに利用できる医療グループ内の病院・医院・開業医のリスト掲載されています。ちなみに、これら医療グループの会費は月額50€ほどから様々で、年間一括払いだと5%オフ、だとか、特典も変わってきます。そして、歯医者さんも、だいたいこのような医療グループに属していることがあり、緊急、もしくは電話での予約ですぐ受診することができます。

昨年バルセロナに里帰りをした時に、言葉の面で不安とのことで日本からの出張の方に同行を頼まれ、歯科医に行ってきました。個人が判明しないならば大丈夫ですよ、と写真撮影を許可されたので、ちょっと治療の様子を写してきました。百聞は一見にしかず。

[唯一違うのは、歯医者さんに入るのに靴は脱がないこと]

とても綺麗なクリニックの扉を入ると、ゆったりとした素敵な治療室が見えてきました。治療室は個室になっていて、痛くて泣いてしまう子供さんがいても大丈夫な様子。海外の医療機関はどんなもの? という興味もおありでしょう。このように、日本の歯科とはほとんど変わらないというの、ご覧いただけますか? そして、この歯科医さんの完全な防備。ゴーグルまで装備します。口を開けて、あーん、というのも歯医者さんに行けばみんな同じ。

人間は、言葉こそ違うものの歯の構造は万国共通のようで、特に歯科医師さんからの質問もなく着々と治療が進みます。そうです。蛇の道は蛇、なのです。言葉がわからなくても、歯医者さんは、患者さんの歯を見れば何が起こっているか、即座に理解するのです。ということで、口を開けている患者さんが話せるわけでもなく歯科医師さんが「はい、ちょっと麻酔しますよ」とか「うがいしてください」なんてのをコメントしたにすぎません。あ、これじゃ、通訳のお仕事がなくなってしまうかしら?

[1年半前の器具類、歯形取り、色見本。今は、すべてコンピューターで制御されているのだろう]

[ゴーグルにPC万全な感じ]

 

そしてこれ重要。『ガーガーと研磨されて万が一痛かったら?』ご安心ください。「痛ければ言ってください」ではなく、「痛かったら右手をあげてください」とニッコリ。これもまたジェスチャーだけで大丈夫ですね。

無事本日の治療が終了し、次回も続行となりました。この受付でのやり取りで筆者の登場なのです。受付から始まり、次回のアポ、治療代支払いのための保険証の提示、カルテに書く連絡先や一連の情報を聞かれるがままに、やり取りし、受付の人に伝える、など細かいことはジェスチャーでは通じなかったりもします。最近ではほとんどの人が英語を話すとはいえ、互いに外国語でのやり取りよりは通訳介在の方が安心かもしれませんね。

 

さて、今回は抜歯にはなりませんでしたが、歯は抜けたりしますよね。まして、お子さんの乳歯。子供の時には虫歯ではなく、自然に抜けていったものです。この歯、最近の日本ではどう扱っているのでしょうか? 昔のように下の歯は屋根に、上の歯は縁の下に向かって投げ、それぞれ上、下に永久歯が無事に育ちますように、というおまじない、今でもするのでしょうか? さて、これスペインではどうするでしょうか?

検索すると、出てくる、出てくる。数々のイメージ!

Ratoncito Pérez(ラトンシート・ペレス、ネズミちゃんのペレス、もしくはRatón Pérez=ネズミのペレス)という妖精がいます。諸説あるのですが、一つはフランスの18世紀の昔話です。極悪王をやっつけるために妖精がネズミの姿となり現れ、王の枕の下に忍び込み、一晩で歯を抜けさせてやっつけた、というものです。スペインでは、乳歯の抜けた子供時代の王アルフォンス13世のために、1894年に宣教師が物語を作った、と作家ルイス・コロマにより広められたいうのです。しかしながら、その10年前には1868年を舞台とした物語に、このネズミちゃんは登場し、その後コロマにより拡散されたお話だ、とも言われているようです。

で、実際にこのネズミちゃん、何をするのでしょうか? 乳歯の抜けた子供は、その小さな歯を枕の下に入れ眠りにつきます。そうすると、次の朝までにネズミちゃんのペレスがやってきて歯と交換にコイン、お菓子、もしくは小さなプレゼントを置いていってくれる、ということなのです。そしてマドリードには、ネズミのペレスの博物館まであるというではないですか! マドリードのプエルタ・デル・ソル広場に近いとのこと。ぜひ一度は尋ねてみたいものです。

カタルーニャ地方では、ネズミではなく、空にいる天使が舞い降りてきて、プレゼントをする、ということになっています。ヨーロッパでも、そしてもちろん南米でも語り継がれている夢のあるお話なのです。

サルバドールが再現してくれました。眠っている子供の枕の下に、アーモンドを砂糖菓子でくるんだ「ペラディージャス(Peladilles)」やアニスのキャンディを袋に入れて、置いていってくれるのが、この「アンジェレッツ(Angelets)小天使たち」なのです。所変われば、同じ国内でも妖精は変わるのですね。歯が強いイメージのネズミと、健康に生え変わるように、という願いが生んだのが、ネズミのペレスなのかもしれませんね。

眠っている間にお菓子袋を持ってきてくれる小天使たち / ©Salvador Barrau

誰でも歯が抜けるのはショックなことですよね。特に子供ならばなおのこと。その子供の恐怖心を夢に変える、ということなのでしょう。

そうやって調べていたら、素敵なプロジェクトを発見しました。「Tooth Fairy(トゥースフェアリー)」といいますが、全国の6802医院の歯科医の参加によって立ち上げられています。日本歯科医師会と日本財団の運営のようです。この「ラトンシート・ペレス」などの妖精から取った名前だそうですが、不要になった入れ歯や金歯、銀歯に使われている有価金属をリサイクルし、未来の子供達をサポートするための活動に使っている、ということなのです。

歯医者通いのお話から、妖精に、そして社会貢献のお話に行き着いてしまいました。さあ、みなさん、こういう話を聞くと歯医者さんに行くのもそんなに億劫にならないのではないでしょうか?

 

今日のワンフレーズは、

¡Ay! ¡Qué dolor! (アイ! ケ・ドロール!=ああ! なんて痛いんでしょ!)

歯の痛みを抱えるみなさん、どうぞお大事に!

イラスト協力:Salvador Barrau氏