スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

国際的な「嘘つき合戦の日」、エイプリルフール、あと一ヶ月を切りましたね。「なーんちゃって」と種明かし、友人や家族を驚かし遊んだ子供時代が懐かしいです。スペインにももちろん、エイプリルフールなるもの、4月1日のことは話題になります。でも、実は密かに「記念日」よろしく祝われるのが、12月28日の「Día de los Santos Inocentes(日本語では「幼子(おさなご)殉教者の日」と呼ぶようです)」なのです。

スペインのエイプリルフールは、なんと12月!

さて、最近は図書館に行かなくとも、自宅で何でも検索できるようになり、便利な世の中になりました。そこで、エイプリルフールや、幼子殉教者の日について調べてみました。意外にも、エイプリルフールの起源は謎である、という事実。どうしてこの日はみんな、嘘を言っても良いのでしょうかね? どなたか、知っている方、いらっしゃいませんか?

さて、本題の12月28日「幼子殉教者の日」の話は、キリスト教のマタイによる福音書に書かれていて、ユダヤの新しい王となるキリストの誕生を知った、当時のユダヤ王ヘロデが、自己の身分が剥奪されるのを恐れて行ったことだと言われています。さて、何をしたのでしょうか? まず、この「生まれたてのキリストを探せ」と命令を下すことから始まります。

それを依頼されたのが1月6日の「東方三賢人の日」の主役たち、通説ではメルキオール、バルタサール、カスパールの三賢人(博士)となります。彼ら3人はキリストの誕生を祝福し、そして帰っていくのですが、ヘロデ王は、「見つけたらその場所を知らせるように」と命じていたものの、この賢者たちはヘロデ王を避け、別の道を通り、自国へと帰っていくのです。それを知った怒るヘロデ王は、なんとベツレヘム近辺の2歳以下の男の子を1人残らず手にかけさせた、と言うのです! 新約聖書によると、だいたい次の通りだそうです。

夢の中で主の天使からのお告げを受けたキリストの父ホセ(José:日本ではヨセフ)ですが、その「起きて、子供ヘスス(Jesús:イエス・キリスト)とその母親マリアを連れて、エジプトに逃げよ」という言葉を信じ、無事に窮地を免れ、この虐殺から逃れた、と言うものです。聖書を読み尽くした訳ではない筆者の調べたことなので、これ以外にも多々の逸話があることでしょうが、これが一般に言われていることのようです。

[Llufa(ジュファ)と言う紙人形が、12月28日の主役。店員も、お客さんも]

それで、なぜこの日に「嘘をついてもいい日」となったのか? それは、「なぜバレンタインデーに女の子が男の子にチョコレートをプレゼントし、告白できる日」となったのか? に匹敵するほど、謎めいているように思います。

12月28日には、町のあちこちにLlufa(ジュファ、紙の人形)が出現します。まずは、百聞は一見にしかず。シンプルなお人形ですが、だいたいが新聞紙や広告紙で作られるようで、このコラムに画像を提供してくれているサルバドール氏に頼んでみたら、このような写真が届きました。要は、半分に折った紙を半身の人形の形に切っていき、それを広げるって言うことでした。初めて作ったよ、と言う割に、美術を専攻していただけに、さすがです。

[いたってシンプル。でも、なんか楽しいLlufa作り]

前述の起源を追っていくと、意外にも残酷な物語が出てきました。てっきり「イノセンテス(英語でイノセンス、無垢な、バカな)な人たちが、気づかれないうちにこのお人形を背中に貼られ、周囲みんなが『あー貼られてるー』と笑うのだ」と思っていたのですが、そんな単純なものではなかったのです!

「で、この紐は何に使うの?」と聞けば、なんでも昔はセロハンの粘着テープがなかったため、このような紐を使って、人形の首と、標的になった人のお洋服をくくりつけたのだそうです。そうですよね。マチ針では危険だし、糊を使えば服が汚れるっていうものです。昔の知恵なのですね。

スペイン全土でこの日は、新聞やテレビなど、メディアでの「ジョーク合戦」が繰り広げられます。それも、行政が参加したりします。その一つをご紹介しますね。

アルコベンダス市役所のお知らせ
「アルコベンダス市役所への入館には微笑みが必要!」
すでに市民に奨励しているスマイルプランはご存知とは思いますが、それをますます広めようとしています。市役所全ての入口には、地方公務員達が立ち、彼らにニッコリと微笑まない方々には、入館をご遠慮していただいております。

なんと楽しいジョークなのでしょう? 誰も傷つけず、怒らせず、みんなを笑顔にするジョーク。見習いたいものです。
さて、Llufa人形を形作ったパン屋さんは、こういうポピュラーな日があるごとに、さまざまなパンを作り、売りだします。今日は2月のバレンタインデーの画像も一緒にご紹介しましょう。女性が男性にチョコレートを渡して告白する日、と定義されている日本ですが、スペインにはそんなイベントは無いのです。所変われば、習慣も変わるものなのですね。

[パン屋さんは祝祭の日毎に創作。バレンタインとカーニバル]

今日のワンフレーズは、
¡Sonríe! (ソンリエ!=笑って!)

まだまだ三寒四温な日々、くれぐれもご自愛のほど!