株式会社プラチナリンク 代表取締役

西田 麻美

電気通信大学大学院電気通信学研究科知能機械工学専攻博士後期課...もっと見る 電気通信大学大学院電気通信学研究科知能機械工学専攻博士後期課程修了。工学博士。
国内外の中小企業や大手企業に従事しながら、搬送用機械、印刷機械、電気機器、
ロボットなど機械設計 ・ 開発 ・ 研究業務を一貫し、数々の機器 ・ 機械を約20年に渡って手がける。
大学教員との兼任で、2017年に株式会社プラチナリンクを設立(代表取締役)。
メカトロニクス教育,企業の技術指導および製品開発を専門に技術コンサルティングを行う。
自動化推進協会常任理事技術委員長、電気通信大学一般財団法人目黒会理事技術委員長などを歴任。
書籍・執筆多数(日刊工業新聞社)。メカトロニクス関係のTheビギニングシリーズは、
「日本設計工学会武藤栄次賞Valuable Publishing賞(2013年)」、
「関東工業教育協会著作賞(2019年)」などを受賞。
日本包装機械工業会「業界発展功労賞(2017年)」、
一般社団法人日本・アジア優秀企業家連盟アントレベンチャー賞受賞(2019年)など
各種教育活動で表彰される。

コラム執筆にあたって

[ ものづくり業界でメカトロニクス・エンジニアは間違いなく重宝される!]
高度化・情報化時代において、次世代のものづくりに対応するには、その基礎となる機械、電気電子、情報の幅広い技術の習得が欠かせません。この領域をバランスよく統括できるのがゆるぎない「メカトロニクス技術」です。AIやIoTなどの応用技術は、あくまでもメカトロニクスという骨組みに付加価値をつけるものです。したがって、人手不足がささやかれる中で、どのようなスキルを持った技術者が重宝され、また企業戦略として、どのようなリソース(=人材育成)を強化すればよいかは明確です。しかし、残念ながらメカトロニクスの実践技術をテーマに人材育成を支援している会社は非常に少ないのが現状です。そこで、今後のメカトロニクス・エンジニアにとって必要なスキルや人材育成について、実際に起業に至った背景なども織り交ぜながら、3回に渡ってまとめてお届けします。

みなさん、こんにちは。株式会社プラチナリンク代表取締役の西田麻美と申します。

みなさんは、社員を育てることに関してどのくらいご興味をお持ちでしょうか?
少子高齢化に伴う人手不足が深刻化する中で、「優秀な人材を獲得したい」、
「社員のモチベーションを高めたい」と多くの企業が悩みを抱えています。
社員が持つ能力を伸ばしたい!と人事活動や採用に関するご相談を受けることが多くなったことをきっかけに、メカトロニクス技術を通して人材育成のご支援をしております。

実は、相談者の人材育成に対する考えには共通点がございます。
それは、一人ひとりが専門分野以外の幅を広げて、新たなアイデア出しから具現化を図るための力を育みたい、改善活動や新規設備導入のための基礎講座を展開したいなど、「実践的なスキルアップ」に注目していることです。人財育成にとって実務に直結したスキルを磨くことは、社員のモチベーションの向上となるだけでなく、ブランド力を高め、人から選ばれる企業へと成長するキーワードです。
そこで、私自身のものづくり経験を通して、第1回目は「実務に必要なスキルを磨くためのメカトロニクス教育」というテーマで解説します。

メカトロニクスでキーワードとなる「統合力」

メカトロニクスとは、高度な価値を産み出すものづくりを指し、メカニカル(機械)とエレクトロニクス(電気電子・制御)が一体となった日本の造語です。メカトロニクスの特徴を一言でいえば、「異分野間の融合技術」と言えます。したがって設計者は、機械や電気、情報(制御のためのソフトウェア)の組み合わせを選定しながら一つに淘汰し、それをさらに高度な製品(宝の山)へと変えていくのが腕の見せ所です。
そこで重要となるのは、対象の製品において、「付加価値機能」をどこで見出すかという視点です。これには物事を多角的に見る力と、そこからの「統合力」が求められます。
総合力(シンセシス)は、メカトロ製品の性質を司る視座で、その経験値を磨くことこそが、製品の価値や解決策を新たに講じていく現場力を高めることと言えます。

メカトロニクス教育の現状と問題点

ここで、実務に必要なスキルとは何か?を具体的に理解していただくために、「メカトロニクス教育の現状と問題点」について述べたいと思います。

問題点1

「統合力」を培うための技術教育に関しては、講師の裁量にまかせ、フォローが行き届いていないという現状があります。お料理に例えて説明するならば、素材の知識や組み合わせは学ぶが、お料理を引き立てる仕上げの味付けについては、学習が不十分ということです。この背景には、メカトロニクスという学問は、機械系、電気系、IT・システム系のそれぞれからアプローチをかけており、母体とする学問に、他の技術を加える形(補完的スキル形式)のアルゴリズムで展開されています。それゆえに、技術のつりあいや全体のバランスを考えながら付加価値を見出すメカトロニクス・エンジニアを育てる環境(教員も含めて)が整備されていないことが挙げられます。

問題点2

通常、学問の探求は、専門ジャンルについて時間をかけて「狭く深く」特化して極めていくことを良しとしています(そうしないと専門性が高まりませんので)。しかし、学問領域をちょこちょこ行き来するメカトロニクス系は、明確な定義があるにも関わらず、その特化すべき方向性をきちんと諭せる技術者・専門家が少ないことが挙げられます。それは、若手の技術者を指導している中で、固定的な視点で物事を考えがちであったり、打開策が非常に狭義的(あるいは偏重的)だったりと感じるからです。
ちなみに、弊社で実施しているメカトロ実習の受講者の意見をいくつかご紹介すると、

「プログラム(=制御)で、なんでも解決できると思っていた」、

「メカ、エレキがこんなに重要だとは思わなかった」、

「付加価値機能の見出し方について、はじめて知った」、

というコメントが多く、製品への向き合い方、設計の捉え方に、バラつきがあることに気づかされます。

問題点3

本来、メカトロニクスは、自動車、工作機械、精密機器、ロボットなど、「用途にフォーカスして」、機械・電気・情報の3要素を統合するという見方が重要なのですが、50年前に、機械と電気が主流の頃に日本で作られた「メカトロニクス」という造語、つまり、その言葉を発祥させた「工場内の自動化」という用途に大きく牽引されていて、メカトロニクスの役どころは、生産性の効率化・向上化のための技術(メカトロ=生産技術)として、いまだに定着されていてる点が挙がられます。最近では、「ロボット」、「情報」が主流となってきていることから、メカトロニクスを「システムインテグレーション」と呼んで、刷新されつつあります。このように、その時の時代やその時の技術の流行によって名前が変わる点もメカトロニクス教育を偏らせる傾向を招くものと考えます。

残念ながら、日本のメカトロニクス教育のカリキュラムに目を向けると、「答えがあって、学んでほしいことが決まっている」、言い換えるならば、課題と解決の合致がとれる枠組みの中で、既存のハードにソフトを組み込むといった組み込み型(モジュール型)教育が、ラインアップとしてショーケースに並べられています。しかし、そのショーケースには、統合力を培うようなカリキュラムは希少なのです。

日本では、システムを新たに構築あるいは高機能化できる技術者が育て得られないという嘆き声をよく聞きますが、このようなラインアップからも一考できます。そして、もっとも危惧すべきなのは、組み合せ型という性質は、部品(データ)と部品(データ)の単純化、標準化、ロジック化が可能なので、近い将来、モノの存在有無を学習したAIが、最も効率的で最良な選択肢を探り当てます。そうなると、あっという間にエンジニアの仕事がAIに凌駕され、出番がなくなることです。

メカトロニクス、ものづくり教育で取り組むべきこと!

本来、ものづくりでは、パフォーマンスさえ良ければ万人が満足できる良製品となるわけではなく、また、効果的に働く相性の良い技術もあれば、トレードオフ(技術的な共存が難しく、相反する要素)もあって、落としどころに正解(答え)がありません。答えが設定されていないからこそ、与えられた時間の中で、課題や現象を俯瞰して把握し、適切な落としどころを探り当てる(一つ一つ素材を生かしてさじ加減する)という人的行為が求められます。その行為に、やりがいや生きがいを感じている技術者も多いことだと思われます。
そこでプロが持ち合わせている設計技というのは、消費者ニーズ(顧客仕様)を的確に捉えて、これを顕在化させるようなアイデア、調整力、そして、ギリギリのところまで余分なものをそぎ落とす(あるいは添え合わせる)統合力とその経験値です。輝いている製品というのは、いつの時代も技術者らがそれらの技で磨きをかけているモノです。

メカトロニクスは、基底的なキーテクノロジィで、差別化の武器となります。これを得るための王道は、機・電・情の素材を戦略的・有機的に調理して、美味しいモノへと仕上げていく統合力を培うことです。若手技術者のうちから、メカトロニクスの知識を強化し、統合力を段階的に鍛えていくことが、個人の技術的なスキルアップ、しいては業務全体における成長へとつながることでしょう。

最後までお読みいただいてありがとうございました。
次回は、「統合力を発揮するために必要なメカトロ要素技術」を取り上げます。
どうぞお楽しみに!