早稲田大学理工学術院教授

金子 成彦

東京大学名誉教授...もっと見る 東京大学名誉教授

明けましておめでとうございます。

私事で恐縮ですが、今年 3 月末に、38 年間勤務した東京大学を定年退職します。

学生時代を含めると 47 年間、ほぼ半世紀にわたり東京大学にお世話になりました。教員になってからは、留学、学内研究所主任、学科主任、新 2 号館建替室長、就職担当、日本機械学会会長、政府プロジェクト責任者等を経験させて頂き、産業界から機械工学へのニーズの変化を肌で感じ、研究教育方針や研究テーマ設定に反映させてきました。研究では、学生時代に始めた流体関連振動の研究を継続し、研究に関係する書籍を 5 冊発行することができました。また、40 代から始めた分散エネルギーシステムの研究を出発点として、東日本大震災以降のレジリエンス強化や実走行時の燃費向上に資する自動車用内燃機関のリアルタイム制御アルゴリズム構築に発展させることができました。

黄金の館のイノシシ

さらに、自分自身が遭遇した交通事故を契機に始めた運転者の体調モニタリングシステムの研究は、交通事故の未然防止や自動運転に関係するテーマとして注目されてきました。このような時宜を得た研究は、多くの方々の協力なくしては達成できなかったことです。関係各位に深く感謝申し上げます。

東大在職最後の年の年末は、年の瀬の寒風吹きすさぶ中、一度は訪問してみたいと思っていた場所を訪れました。まずは、ハウステンボスの黄金の館から今年の干支の「イノシシ」をお届けします。

ハウステンボス訪問

東京から実家のある山口市湯田温泉までの途中にある名所旧跡を訪ねる小旅行を数年間続けてきました。

今回の訪問先はハウステンボスです。ハウステンボスの面している大村湾は、外海と 2 か所でしか繋がっていない内海で、「すなめり」も住む静かな美しい海です。

船でアクセスすると、大村湾の北端に忽然と見えてくるのがハウステンボスです。

大村湾

ハウステンボス遠景

園内の建物は、創業社長がオランダから材料を輸入してきて建てたもので、気合を感じます。小生が数年前に訪問したオランダの風景をとてもよく再現していると思いました。特に、夕暮れ時から夜にかけての風情を懐かしく思い出しました。

園内の風車

園内を巡る遊覧船と運河

水鳥の楽園はまるでオランダの原風景

タワーと街並み

このテーマパークは、バラやチューリップを始めとするフラワーパークでも有名ですが、夜のイルミネーションは世界最大規模で、タワーからの夜景は圧巻です。

タワーからの夜景(広場)

タワーからの夜景(フラワーパーク)

古伊万里のお皿

園内に伊万里焼、鍋島焼を集めた博物館があり、ここで、興味深いお皿に出会いました。これはお皿の真ん中に VOC の文字が刻まれた古伊万里のお皿です。17 世紀に大規模な交易で成功したオランダ連合東インド会社(The East India Company of the Netherlands : 略称 VOC)は、中国で生産される磁器を交易品としていましたが、17 世紀半ばから中国の内乱により磁器の生産量が減少したため、中国に変わる生産地として有田皿山を選びました。磁器の輸出量は年と共に増大し、1650 年から 1757 年の間に約 100 万個が輸出されたとのことです。

東インド会社が扱った伊万里焼の皿
(中央に VOC の文字あり)

デルフト焼
(オランダのデルフトにて)

このお皿は、数年前にオランダのデルフトの土産物店で見つけたデルフト焼のデザインとよく似ていることに気付きました。

エルゼビア社

JFS 表紙

研究者の間でオランダというとすぐに思い出されるのが、出版社のエルゼビア社です。

小生が、1986 年にマギル大学に留学した際に、ホスト教授のパイドウシス先生が、流体力学では有力雑誌である JFM(Journal of Fluid Mechanics)に負けないような雑誌を目指して創刊されたのが、JFS(Journal of Fluids and Structures)でした。この雑誌の発行元がエルゼビア社です。当時、パイドウシス先生は、表紙のデザインに悩まれていまして、最終的には、右のような渦をモチーフにしたものに落ち着きました。小生も長年にわたってこの学術誌の編集に係わっています。

その後、小生は、エルゼビア社から、流体関連振動の専門書を 2 冊発行させて頂きました。これらは、和文で発行された「事例に学ぶ流体関連振動」を翻訳したものですが、英文での教科書執筆は、英文で論文を執筆するのとは少々勝手が違っており、読み物の体裁と分かりやすい論理展開が求められます。最終的な英文校正は、小生がマギル大学に留学していた時の学部生で、現在、エコールポリテクニック・モントリオール校教授のジュキ・ムレイティさんに引き受けて頂きました。また、第 2 版では、山形大学准教授のランジェム先生にもお手伝いして頂きました。

First edition

Second edition

第 3 版

さて、和書の「事例に学ぶ流体関連振動」第 3 版が 2018 年 11 月に出版されました。第 2 版に「数値計算」と「技術ロードマップ」の章が追加になり、全 10 章構成で、432 ページとなりました。しばらくの間は、この分野のエンサイクロペディアとなりそうです。完成できたのは、日本機械学会 FIV 研究会に所属されているアカデミアと産業界の皆様のご協力の賜物です。

実務経験豊かな企業のベテランと大学の若手研究者が共同作業する場としての改訂作業はもの作りのノウハウや技術を伝承する場を提供しています。今回は、企業関係者 20 名、大学・研究機関関係者 20 名に作業に携わって頂きました。

湯田温泉

さて、ブログを締めくくるにあたり、小生が生まれ育った湯田温泉を紹介します。

ゆう太

左の写真は、湯田温泉のキャラクターです。

湯田温泉駅を降りると、すぐに大きな白狐が飛び込んできます。湯田温泉は、キツネが見つけたという伝説があり、毎年、4 月には、湯田温泉白狐まつりが行われ、白狐行列は呼び物です。

温泉舎

こちらの写真は、「ゆのや」と呼ばれる、温泉のお湯が沸き出るところで、お湯の質は、アルカリ性単純泉、pH9.4、湯温:62℃、湧出量:毎分 125ℓ で、深さ 500m のところからくみ上げられています。透明なお湯で、美肌の湯として有名です。

井上公園

次は、実家から 50m の距離にある小生の古戦場だった井上公園です。ここは、長州の五傑の一人である井上馨候(注 1)の生家があった場所で、井上候の銅像の他にも近くに生家のある中原中也の詩碑、三条実美卿が仮住まいされていた「何遠亭」と「七卿落ち(注 2)」記念碑があります。

(注 1)明治維新の元勲、四境戦争、鳥羽・伏見の戦いで貢献した後、明治新政府で外務・内務・大蔵大臣を務めた。

(注 2)三条実美、三条西季知、東久世通禧、壬生基修、四条隆謌、錦小路頼徳、沢宣嘉の 7 卿が文久三年(1863 年)の八月十八日の政変により朝廷を追われ、京都を逃れて長州へ移った。

井上公園案内板

井上馨候銅像
(銅像の横には、元治元年(1864 年)に袖解橋で瀕死の重傷を負った井上候を助けた所郁太郎医師を顕彰する碑が建てられている)

何遠亭(現在のもの)

何遠亭石碑

何遠亭は井上候のお屋敷の離れだったところにあり、笠間藩出身で萩明倫館教授の加藤有隣が、名付けたものです。「何の遠きことかこれ有らん」つまり「遠くない日にきっと京都に戻れる」という意味に由来します。

昭和 40 年(1965 年)に中也を偲ぶ友人と郷土の人々により詩碑が建てられ、小林秀雄の筆による「帰郷」の詩句の一節と大岡昇平の碑文が刻まれています。この詩碑の前では、小生も自問自答したものです。

湯の町散歩

湯田温泉は、中心部を通る国道 9 号線(現在は、県道 204 号線)が開通するまでは、維新街道と呼ばれる旧街道が山口市の中心部に至るメインストリートでした。湯田温泉の商店は、維新街道沿いの街並みとそれに直交する横町界隈に集まっていました。横町には、中原中也の生家の後にできた中原中也記念館や「獺祭」を始めとする山口の地酒を扱う老舗の原田酒舗があります。小生が差し入れるお酒はこの酒屋さんから届けられます。

中原中也生家(今は、記念館)

原田酒輔

維新街道沿いには、趣のある「京栄旅館」(注:現在は営業されていません)と我が家があります。

維新街道の看板

京栄旅館

この家は、祖父が金子重蔵商店という鍛冶屋を構えたところで、町屋の作りです。

 

小生の「もの作り」との接点はここから始まりますが、その後の展開は、最終講義でお話しいたします。ご興味のある方は、聴講においでください。

金子成彦最終講義

  • 題目 : 流体関連振動から広がる、社会に役立つもの・こと・しくみ作り
  • 日時 : 2019 年 3 月 15 日(金)14:00~16:00
  • 会場 : 東京大学(本郷キャンパス)工学部 2 号館 213 講義室
    https://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_04_03_j.html
  • 申込み:準備の都合上,事前登録制としたいと存じます。下記 URL よりご登録下さい。
    http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/knock/ob/
  • 申込み〆切:2 月 15 日(金) 終了しました。

おわりに

ご愛読いただき、有難うございました。

長年にわたり、小生の研究教育活動にご支援を賜った皆様に厚く感謝申し上げます。