電気通信大学 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 情報理工学域 III類(理工系) 准教授

結城 宏信

■ 経歴
電気通信大学 電気通信学部 助手...もっと見る
■ 経歴
電気通信大学 電気通信学部 助手 1994/04/01-1999/03/31
電気通信大学 電気通信学部 講師 1999/04/01-2003/03/31
電気通信大学 電気通信学部 助教授 2003/04/01-2007/03/31
電気通信大学 電気通信学部 准教授 2007/04/01-2010/03/31
電気通信大学 大学院情報理工学研究科 准教授 2010/04/01-現在

■ 学歴
東京都立府中高等学校 普通科 1985/03/11 卒業
電気通信大学 電気通信学部 機械工学科 1989/03/24 卒業
電気通信大学大学院 電気通信学研究科 機械制御工学専攻 博士前期 1991/03/22 修了
電気通信大学大学院 電気通信学研究科 機械制御工学専攻 博士後期 1994/03/23 修了

■ 学位
工学士 電気通信大学 1989/03/24
工学修士 電気通信大学 1991/03/22
博士(工学) 電気通信大学 1994/03/23

■ 現在の専門分野
機械材料・材料力学
設計工学・機械機能要素・トライボロジー

ものを壊した経験が一度もないという人は恐らくいないでしょう。手が滑って皿を落としてしまったことはありませんか? 「あっ!」と思ったとほぼ同時に「ガチャーン!」という音がして皿が割れる光景は日常茶飯事とはいわないまでも珍しいことではないと思います。このようにものが壊れるときには音が出ます。皿が割れる音は人間の耳ではっきりと聞こえますが、材料中に小さなき裂が発生したり成長するときなどには人間には聞こえない周波数が非常に高い微弱な音が弾性波として材料内を伝播します。この弾性波を計測して様々な情報を得る技術が今回お話させていただくアコースティック・エミッション(AE)法です。

アコースティック・エミッション(AE)とは?

図 1 アコースティック・エミッション

固体に起こった何らかの急激な変化に伴って弾性波が発生する現象をアコースティック・エミッション(AE)といいます(図 1)。この弾性波(AE 波)は一般に超音波領域のものなので、対象に AE センサを取り付けて計測します。では、AE を計測すると何がわかるのでしょうか?  AE の発生はものに何か変化が起こったことを意味しますので、AE 発生の有無をモニタリングすることで機械や構造物の状態を監視できます。よく知られている非破壊検査法の多くは対象がどのような状態にあるかを調べるものですが、AE 法は対象にどのようなことが起こっているかを知るために使えるのです。また、AE 波の波形を解析すれば原因となった事象の動的な情報が手に入ります。どの程度の頻度で、どの程度の規模の、どの程度の速さの変化が起こったかがわかります。複数のセンサを取り付けていれば、それぞれのセンサが AE を検知した時刻から AE が発生した場所を特定することもできます。AE 法はものが出す声に耳を傾け、その生きた情報を引き出す技術ともいえるでしょう。

日本の AE の研究や技術は世界の中でトップレベルに位置しています。一般社団法人日本非破壊検査協会では AE に関する国内会議と国際会議をそれぞれ隔年で開催しており、AE 法を手掛ける主立った研究者・技術者が勢ぞろいして AE の基礎から応用まで最新の成果報告と活発な議論を行っています。 昨年 11 月には 24 回目を数える国際会議(24th International Acoustic Emission Symposium,IAES-24)が北海道の札幌市教育文化会館で開かれました。ともすると日本で開かれる国際会議は参加者のほとんどが日本人だったりしますが、この会議には毎回海外からも多くの参加者が集まります。また、参加者の専門分野が機械系、土木系、材料系、電気系と多岐にわたっていることも他ではあまり見られない AE の会議の特徴です。今回の国際会議も 100 名近くの参加者の 3 割強が海外からで、表 1 に示すセッションが三日間にわたり繰り広げられました。各種材料における AE の特性、様々な機械やインフラ設備の健全性評価、新しいセンサや装置、AI を活用した信号処理など時代の最先端をゆく興味深い発表が詰まっていました。

表 1  第 24 回国際アコースティック・エミッション・シンポジウムのセッション
第一日目 第二日目 第三日目
 Concrete I
Sensor
Concrete II
Structures & Diagnostics
Composite I
Metal I
Composite II
Structures
Masonry
Diagnostics (Civil Engineering)
Cements
Manufacturing
Ceramics, Composite & Rope
Diagnostics (Mechanical Engineering)
Diagnostics (Miscellaneous I)
Diagnostics (Miscellaneous II)
Signal Processing
Metal II

 

こんなものにも AE、こんなところでも AE

手書き製図の濃淡評価

大学の授業で手書き製図を行わせるとき最近はシャープペンシルを使いますが、図面中の線の濃淡について教員と学生のあいだで主観的な議論が起こりがちです。シャープペンシルで線を描くとは芯を摩耗させ紙に転写することですから、線の濃淡は磨耗すなわち破壊の大小に起因した結果といえます。破壊の大小の評価となれば AE 法の出番です。筆者の研究室では AE に注目した線の濃淡評価を試みています [1,2]

[1,2]

。 図 2 は濃さが異なる線を描いたときに発生する AE を計測した例で、線の濃さによって振幅の大きさなどに違いがあることがわかります。この波形から抽出したパラメータを用いて濃淡の良否を定量的に評価するシステムの実現を目指しています。

(a) 濃い線

(b) 薄い線

(c) 濃淡のある線

図 2  シャープペンシルで線を描いたときの AE 信号

光ファイバ AE センサ

AE センサは圧電セラミックスを検出素子にしたものが広く用いられていますが、引火の危険性がある環境や水中で使うには特殊な工夫が必要です。光ファイバセンサはそのような環境での AE 計測に有効なものと期待されています。図 3 はマッハ・ツェンダ干渉計型と呼ばれるセンサの構成で、測定物理量に追従して伸縮するセンシングファイバと静止状態にあるリファレンスファイバの中を伝わる二つの光を干渉させることで微小な変化を検出します。筆者の研究室では円柱形状のセンシングブロックの側面にセンシングファイバを接着し、リファレンスファイバを緩衝材を介してセンシングブロックに固定した図 4 (a) に示すようなセンサを試作しました [3]

[

3]

。センシングブロックの底面で捉えた AE 波がセンシングブロックを伝わりセンシングファイバを伸縮させます。一方、緩衝材の存在によってリファレンスファイバへの AE 波の到達は遅れるため、検出波形の最初の部分に注目するのであればリファレンスファイバは静止状態とみなせ、マッハ・ツェンダ干渉計型センサが実現できます。また、二重円筒構造を用意して円筒からU字状にセンシングファイバを引き出し、内部の円筒にリファレンスファイバを巻き付けた図 4 (b) に示すような水中計測用のセンサも提案しています [4]

[4]

図 3 マッハ・ツェンダ干渉計型光ファイバセンサ

(a) 一般計測用

(b) 水中計測用

図 4  マッハ・ツェンダ干渉計型光ファイバ AE センサ

図 5 はファブリ・ペロー干渉計型と呼ばれるセンサの構成で、ハーフミラーで反射した光とハーフミラーを透過しフルミラーで反射した光を干渉させるためリファレンスファイバが必要ありません。筆者の研究室では特定の波長の光だけを反射するファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)を使ったファブリ・ペロー干渉計型光ファイバ AE センサの開発を進めています [5,6]

[5

,

6]

。図 6 のように光ファイバの先端に反射率が異なる FBG を二つ並べてそれぞれハーフミラーとフルミラーとして機能させたもの(FP-FBG ファイバ)を二つの半円柱形ブロックで挟むことで、図 7 に示すようなセンサが作製できます。このセンサは図 4 (a) のものに比べて取り扱い性に優れていることがおわかりいただけると思います。

図 5 ファブリ・ペロー干渉計型光ファイバセンサ

図 6  FP-FBG ファイバ

図 7 FP-FBG AE センサ

おわりに

AE の概要と筆者が手掛けている研究を幾つかご紹介しました。AE 法は計測機器やパラメータの選び方を間違えると意味のある情報が何も得られないため、残念なことに敷居を高く感じたり使えない手法だと誤解される方が時々おられます。しかし、正しい理解のもとに使用すればそれほど難しいものではなく、他の方法には代えられない力を発揮します。ものが出す声に耳を傾けることによって拓かれる世界へ足を踏み入れてみませんか?

【参考文献】

[1] Hironobu Yuki and Yuki Honjo: “Evaluation of the Tone of Lines in Manual Drafting with a Pencil by Acoustic Emission Measurement”, Proceedings of the International Conference on Advanced Technology in Experimental Mechanics 2015, p.92, (2015).

[2] 結城 宏信, 川嶋 勇輝: “手書き製図で描かれる線の濃淡の AE 信号による定量的評価”, 日本機械学会2017 年度年次大会講演論文集, No.17-1, S2020105, (2017).

[3] 結城 宏信, 甲斐 崇: “可搬性を考慮したマッハ・ツェンダ干渉計型光ファイバ AE センサの構造と特性評価”, 非破壊検査, Vol.61, No.9, pp.488–494, (2012).

[4] 木村 大樹, 結城 宏信: “水中用干渉計型光ファイバ AE センサの周波数特性評価”, 日本機械学会M&M2012 材料力学カンファレンス CD-ROM 論文集, No.12-5, OS2006, (2012).

[5] 結城 宏信, 多田 和希: “FBG で構築したファブリ・ペロー干渉計の光ファイバ AE センサへの適用” 第 21 回アコースティック・エミッション総合コンファレンス論文集, pp.109–112, (2017).

[6] Hironobu Yuki and Yushi Tsukamoto: “Sensing Stability of the Fabry-Perot Interferometer Type Optical Fiber AE Sensor with Fiber Bragg Gratings”, Progress in Acoustic Emission XIX, Proceedings of the 24th International Acoustic Emission Symposium, pp.29–32, (2018).