スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

さあ、春はすぐそこです。プリマヴェーラ(Primavera)というのがスペイン語で春を意味します。暖かくなると、野外で楽しもう、とういのは、日本のお花見だけではないようで、スペイン人たちもおんなじ。そして、そこには必ず音楽がお伴します。今日は、身近なところのミュージシャンをご紹介します。

さあ、プリマヴェーラ※、歌いましょう!(※ Primavera = 春)

録音のために、綿密に調整しながら、歌詞にも変更を入れる

音楽は万国共通、どこにいても楽しまれている文化の一つです。昔日は LP レコード、ドーナツ盤、 カセットテープ、ウォークマン、最近では CD や iPod、そしてスマホでも音楽が聴けるようになり ました。かれこれ 30 年ほどでこの進化、というわけですが、さてみなさん、音楽をどんな風に楽しんでいますか?

  カラオケが「KARAOKE」となり、世界共通語になったように、歌を歌うというのは万人の楽しみであるようです。スペインも例外ではありません。ただ、日本のようなカラオケ文化には発展しなかったのです。ご存知のように、一人で一つのマイクで、各人が、またはデュエットで歌うのが日本のカラオケです。しかし、スペインでカラオケが始まると、一人がマイクを持ちながらも、 最後には参加者全員の大合唱になる、というのが普通なのです。国民性ももちろん日本とは違う、というのもありますが、ルールもその国のニーズに次第と合っていくものなのですね。何しろパーティーの好きな国民で、音楽は生活に欠かせないわけで、友人には DJ も数人、ミュージシャンもかなりの確率でいます。

 

音楽のフェスティバル、コンサートなどが多いのも、筆者の住んでいたバルセロナが、日本に例えると大阪、というスペインで第二の都会だということもあります。五日間続くミュージックフェ アーであったり、砂浜での夜通しコンサートであったり、音楽好きにはたまらないイベントが盛りだくさん。音楽ジャンルにはあまりこだわらない筆者は、友達に誘われ、一泊二日、それもキャ ンプ場に泊まって聴きに行ったフェスティバルもあります。また、闘牛場やオリンピック競技場でのコンサートも一風変わった感じでした。また、週末のバルでライブが行われたりするのもごく普通の光景です。

 

音楽を聞いて楽しむ、音楽を演じて楽しむ、楽しみ方にはいろいろあるのですが、じゃあ、自分たちでアレンジしてみよう、というのももちろん「アリ」ですよね。はい。楽しみました。楽しみました。

 

バルセロナから 100 キロほど内陸の、ジェイダ県(Lleida)にエリさんとパトリシさんが移り住んで、かれこれ 8 年になるでしょうか。有機野菜を栽培し、土と生きて行きたい、という、いわゆる脱サラのご夫婦。田舎の生活、特に冬の間は何をするか? それが今日のテーマ、音楽なのです。 パトリシさんは昔、音響の仕事をしていたため、その当時の機材が一室に集められ、素敵なスタ ジオが出来上がったのです。この村では一室ですが、引っ越す前はガレージがスタジオだったのです。もちろん隣接したご近所さんがいないこと、というのが条件ですが、ヨーロッパの建築は石造り。ちょっと工夫すれば、かなりの防音効果が生み出せます。以前のお家のガレージからは、もちろん防音材もお引越ししてきました。そこで行われるのが、録音です。ベースとなる音源に様々な効果音を加えていくのがパトリシさんの得意分野。筆者が参加したのは、多国語での「キサス・ キサス・キサス」でした。イタリア語、スペイン語、フランス語、カタラン語、日本語でのミックスバージョンが生まれたのです。

食後酒を引っ掛け、「さあ、いくぞ!」状態のメンバー

まずはスペイン語の歌詞をそれぞれの言語に意訳し、歌いやすいようにアレンジをします。これが、録音の日までの宿題。みんなで日を合わせて集合。こんな日は泊まり込みになるので、だいたいが週末。昼食が 1 日の食事のメインであるスペインではワインは食卓に欠かせないもの。エリさんを中心に用意した和やかな昼食の後にはコーヒー、食後酒をいただきながらの歌詞の読み合わせ。アンジェラさん、エリさん、ライアさん、筆者で少しづつハーモニーを入れた練習となり、声も出るようになってきたのです。その後、音響技師兼プロデューサー、ディレクターであるパトリシさんの指示のもと、一人づつスタジオに入り、録音作業に入りました。それぞれが楽しく「歌手」を楽しみ、夕方が夜に、そしてガレージのスタジオがディスコにと変わり、夜は更けていったのです。その後、パトリシさんの編集作業が三日以上続いたということで、お疲れさまの後、無事キサス・キサス・キサス多言語バージョンが誕生し、それも筆者の誕生日プレゼントとして届いた時の驚き嬉しさと、その曲が、紙面では表現できないのが残念です。これは、今でも筆者のテーマソングとして、また、バルセロナの大切な思い出です。

引っ越しして新しいスタジオを完成させた。 数々のアイディアが浮かぶ

こんなご夫婦の間だからこそ、ついに歌手デビューを果たした、カロラさんという娘が出来上がるのです。彼女もこのスタジオの利用者なので、まずはお父さんと一緒に録音したのがこちら。

https://carolallonch.bandcamp.com 

ビデオクリップは友人の Vicenç(ビセンスさん)が作製 (https://m.youtube.com/watch?v=ONukZADTjxQ&feature=youtu.be) 、

彼とのデュエット PUMA RAI TAPE DIANA を結成、電子音楽を作っています。リンクはこちら。

https://pumaraitapediana.bandcamp.com/

自然をバックに、そしてステージで。カロラ・ジョンク

そして、こんなご夫婦と友達なのがミリアムさんとキケさんです。彼らも自営であることから、バルセロナから離れ、庭のあるお家に引越しをしました。春になると必ず合同誕生日の Fiesta(フィエスタ=パーティー)が催されます。ある日、キケの 50 歳という節目の誕生日に、前回ご紹介したネギ焼きパーティーが開催され、その時にドラムセットが友人一同より贈られたのです。

ステージ上でマイクの取り合い? ジャムセッションが始まります。

地中海沿岸の町バルセロナは、一年のうち 300 日は晴れるので、屋外でのイベントで雨が降ることが少ないので助かります。年によっては、暑くて大変なこともありますが、大体が穏やかな太陽の元、パーティが始まります。一品持ち寄り、各自自分の分はカバーする飲み物持参というルールを守っていくと、仮設のテーブルがあっという間に一杯になります。持ち寄った後は、好きなものを好きなだけ飲食する、ラフなものです。午前中から続々と仲間が到着し、集まったメンバーから順に缶ビールやワインを開け、乾杯、談笑、身の上話、相談事、それぞれが居心地の良い場所を見つけて日光浴。順番に挨拶を交わしていくと、音楽担当のメンバーがその日持ち寄った曲を大音響で流し始め、テラスではすでに踊り始める人も出てきます。いつも 30 人以上は集まるビッグイベントで、大体が土曜日なのですが、朝から夜まで、また泊まりがけで来る友人たちもいるため、仕事が終わってから顔を出す人もあり、久々の近況報告会となるわけです。もちろん SNS での繋がりもありますが、やはり直接会って、顔を見るのは楽しいものです。

続々と集まるお料理。 いろんな味が楽しめるのが、持ち寄りのフィエスタ
お誕生日プレゼントのドラムに大満足のキケさん

大体のメンバーが揃ったところで、全員での乾杯と、お誕生日主催者達の挨拶です。スペインでは、自分の誕生日は自分でお知らせ、会を催す、というスタイルなため、職場にクッキーを持って行って同僚達に振舞うのは普通だし、友人を招いての誕生会も、用意をするのは誕生日の本人です。日本とはちょっと違いますね。立食での食事、紙コップに入れた Vino(ビノ=ワイン)や Cerveza(セルベッサ=ビール)を飲みながらのダンス。疲れたら椅子を見つけてきて座るもよし、木陰を探して昼寝も良し、全く規則の無い、好きなことを好きなように、という集まり。

たくさんのキャンドル。 お誕生日ケーキには欠かせませんね

デザートタイムには 3 人のためのケーキが登場し、キャンドルを消し、食後酒が配られる。それと同時に、スピーカーからの既存の音楽は消え、ドラム、ギターなどの楽器の音が鳴り始め、それぞれがそれぞれの楽器をつま弾き始め、ジャムセッションの始まりです。太陽の光を浴びながらのセッションに食後の運動とばかりに踊り始める人々。

 

こうして、夕方遅くなると、帰る人も出てくるし、寒くなって来たので室内に移動、ということになり、そろそろパーティーもお開きです。スピーカーやデッキも片付けられ、次のパーティーまでしばしの別れです。

「じゃあ、またね!」と帰路に着く時には、来た時と一緒なメンバーと帰る時もあるけれど、「私、こっちに乗せてもらうわ」とメンバーが変わる時もあり、誰と一緒でも和気あいあいな関係が良いですね。

 

さて、日本もやっと春になり、アウトドアでの活動が嬉しい季節となりました。お誕生日でなくても、何か理由を見つけて、仲間を集めたパーティーはいかがですか? その時には、音楽もお忘れなく。

 

 

¡Hasta la próxima!

(アスタ・ラ・プロキシマ、「ではまた次回に」という意)