スペイン語通訳・翻訳 スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在 27 年を経て、2015 年に帰国...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在 27 年を経て、2015 年に帰国。
金沢市の北國外国語カレッジを中心に、スペインの生活とスペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでつながりながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとして、ますます活動の幅を広げていくべく、挑戦中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

男と女、なぜ区別?(スペインの知られざる文化 No.13)で、筆者のスペインでの男女関係(!)についての経験を書きましたが、そこでは書ききれなかったのが、今日のテーマ。

日本では、お酌って、女性がするんだった

先日、ひょんなことから一人ランチをするチャンスがあり、1 人で食べているとなぜか周りが気になる筆者、「申し訳ない」と思いながらも隣のテーブルに注目しちゃいました。

「昼定食二つに、ビール持って来て」と注文したご夫婦。「瓶ビールですが、よろしいですか?」というウェートレスさんに、「うん、いいよ」と答える男性。忙しく動き回るウェートレスさんは、瓶ビール、グラス、おつまみを持ってテーブルに戻って来ました。注文したのが男性なので、男性の前に『ほろ酔いセット』が置かれます。これがスペインならば、グラスは二つになるはずですが、酒気帯び運転さえ許されていない日本では、2 人のうちどちらか 1 人がハンドルキーパーなので、グラスは一つです。

ウェートレスさんはテーブルでビールの蓋を開け、「はい、ビールをお持ちしました。お食事は少々お待ちください」と言って去って行きました。すると向かいに座った女性はすかさずビール瓶を持ち、男性にお酌をしはじめたのです。

うううううん。

日本に戻って 5 年になろうとしますが、なぜか違和感満載になるのは、筆者がかぶれているからでしょう。

だって、スペインでは、食事でお酒をつぐのは男性の役割、なんですもの。

注ぐ方も、注いでもらう方も片手
ワインクーラーにはたっぷりと氷が入ってくる

レストランに行くと、camarero(カマレロ=ウェイター)もしくは camarera(カマレラ=ウェートレス)がメニューを持って来ます。好きなテーブルについて良い場合と、案内によってテーブルにつく場合がありますが、スペインにはおしぼりやお冷やを持ってくるという習慣がないので、にこやかなご案内があるだけです。そこで、ワインリストが別になっている場合があり、それが男性に渡されることになります。食事の席でワインを選ぶのは男性なのです。

筆者は長女で、「お姉ちゃんだからしっかりしなさい」と育てられたため、若い頃は結構姉御肌で、気をつかうタイプだったのですが、それがスペインではすっかり「おまかせ体質」になってしまいました。だって、好き嫌いが無いだけではなく、なんでも食べたり飲んだりしてみたい、そしてこだわらない私は、誰かが全てを決めてくれれば、「あ〜、悩まなくて済んでよかった〜」と思うからです。

さて、でもここで、スペインの女性は疑問を呈します。

産地、ぶどうの種類、などなどを吟味し、一本のワインを選ぶのに、「どうして男性でなきゃいけないの?」です。全ての男性がぶどうの種類やワイナリーの特質を全て知っているわけではないし、もしかしたらそのグループの中の女性の方が詳しいかもしれないのに、です。

一度飲んだことがあって好きなワインであったり、好きな品種のぶどうであったり、また原産地名称保護により産地や品質が保障されているワインであったり、一本を選ぶための指針は数多くあります。またワイナリーの知名度や、価格によって決めるのも十分「あり」なワイン選び。リストから選んだ一本が運ばれてきます。これも、男性の元に届きます。白、ロゼワイン、カヴァ(スペイン産発泡ワイン。フランス産はシャンパンと呼ばれる)にはワインクーラーも運ばれてきます。大型のアイスペールを想像してください。そこにキューブアイスと水が半分ほど入れられ、テーブルの横に設置されます。

四苦八苦していると、どれ、貸してごらん、と、誰もがワインを開けてくれる。

そしてグラスに注ぎ分けられる

カマレロが仰々しくワインボトルを両手で掲げ、「こちらのワインでよろしいですね」と確認を促すのも男性客の方に。尋ねられた方は大きく頷く。ワインオープナー(sacacorchos = サカコルチョス)で手際よくボトルを開いたカマレロは、「¿Desea catar el vino?(デセア・カタール・エル・ビノ?=ワインを試されますか?)」と再び男性に尋ねます。

赤、白、ロゼ、カヴァ、 様々な種類があり、何にしようか迷う

(初めて頼んでみたワインの場合)

コルクを観察。ワインを凝視。グラスに鼻を近づけ香りをチェック。ちょっと口に含む。想像したワインならば、「どうぞ、注いでください」と答えます。

(何度も飲んで知っているワインの場合)

「試さなくてもよく知っているワインなので大丈夫。みんなに注いでください」となります。ただ、ほんのすこしの確率でワインの中身が変質している場合があるので、やはりその確認はした方がいいのですが…。

全てのグラスにワインを注ぎ終え、ボトルはワインクーラーに入れられ、あとは食事が始まるのを待つばかり。

このようなイベントが各食事ごとにあるのですから、そしてスペインでは昼食が一日のメインの食事なのですから、時間のかかること、かかること。

ちょっと気取ったレストランならば、カマレロもしくはカマレラが度々テーブルに近づいてきて、空いたグラスにワインを注ぎに回ってくれます。

そうでないと、ワインクーラーの横の男性がお酌(!)をしてくれるのです。

どんな食事にもワインは欠かせない

姉御肌な私は、ワインを注ぐ。ビールは日本でいう「手酌」。これ、普通

カヴァも、グラスに注がれて、みんなに渡されるので、お酌はない

そして、テーブルのグラスですが、注がれている間はグラスに手は添えません。日本だとさしずめ「失礼な!」となり、両手でグラスを持ち受け、そこにお酌の飲み物が両手で注がれるのですが。全く違った習慣の違いに、渡西間もない頃は、どうすればいいのかわからず、ドキドキしたものでした。

では、女性はワインを注がないのでしょうか?

いいえ、注ぎますよ。私はワイン大好きなので、ついついピッチが早まるのですが、その時にはまず、ボトルを片手で持ち、テーブルのメンバーに順に注ぎます。そして最後に自分のグラスに注ぐのです。日本のように、「まあまあ一杯!」と瓶を相手からもらって「お酌を返す」というコンセプトは、スペインにはないように思います。

ビールに至っては、小瓶のビールをそのままラッパ飲み、もしくは自分でグラスに入れるので、やはり相手にお酌をする、というコンセプトはありません。

以前、数年にわたりスペインで会社員をしていたことを書きました(スペインの知られざる文化 No.16)。

もちろん年に一度、忘年会(クリスマス会という方がふさわしい)が会社主催で開かれ、かなりのおめかしをしての食事会となります。マドリードの本社からも重役達が訪れ、70-80 人でのディナー。席順は職種混合となり、初対面の同僚や、社長と隣り合わせ、なんていうこともありました。しかし、ですが、差しつ差されつ、という、ビールのお酌は行われなかったのが、衝撃的ではありました。仕事の一環とはいえ、会社が社員に対して開催してくれるクリスマスの食事会。普段は雲の上にいるかのような上司達との会合では、いかに本音を真綿に包んで上に伝えるか、ということさえ忘れ、ほぼ無礼講で夜が更けていったものです。

ということで、今日は日本との習慣の違いをワインを例にとってお話ししてみました。

カタルーニャ地方では、それよりもっと素敵な「Porró(カタラン語「ポロ」)= Porrón(スペイン語「ポロン」)がいろんなシーンで使われるので、ご紹介しましょう。回し飲みするけれど、口はつけないので清潔。お酌しなくても良い。シャツを汚すから嫌、という人は、グラスに注いで。差しつ差されつ、ではなく、飲みたい人が飲む、というシステム。

かなりポピュラーなポロ。 喉元が汚れるので、使用にはかなりの練習が必要。でも便利

何れにしても、筆者はナマケモノなので、誰かがワインを選んてくれて、その上注いでくれて、というシーン、大好きです。男だから、女だからってのは、あんまり気にしないかしら?   美味しい、楽しい宴を楽しみましょう!

師走まであと少し。いろんな会合が開催される時期に差し掛かりますね。くれぐれも飲み過ぎにご注意を!

¡No os paséis! (ノー・オス・パセイス = リミットを超えないでね)